蒼鷹丸の調査航海 ― 2017年06月21日 12:27
私は4月からしばらく無職だったのですが、大学の時の同級生だったKさんの紹介を受け、5/23~6/20の間、中央水産研究所の調査船「蒼鷹丸」に調査補助員として乗ってきました。基本、私はブログに直接仕事の話を書かない方針なのですが、Kさんが
『最近は大学に補助員のバイト募集を出しても、なかなか人が集まらないんだよねー』
とこぼしておられたので、私の経験を(書ける範囲で)書いてブログに載せれば、
『どういう仕事なのか、よくわからないし……』
と不安に思って敬遠している大学学部生・院生の方もやってみようか!と思ってくれる人が出てきてくれるのでは、と思い、書いてみる事としました。
水産研究所とは、蒼鷹丸とは
水産研究所とは、国管轄の水産について研究をする施設で、
- 北海道区水産研究所(釧路他)
- 東北区水産研究所(塩釜他)
- 中央水産研究所(横浜他)
- 国際水産研究所(清水)
- 日本海区水産研究所(新潟他)
- 瀬戸内海区水産研究所(廿日市他)
- 西海区水産研究所(長崎他)
と国内各地に研究所があり、それぞれ調査船を持っています。今回私が乗船した「蒼鷹丸」は、中央水産研究所の持つ調査船で、専業の船員さんが20数名おられます。1回の調査で10~40日くらい海に出て様々な調査を行っています。水産研究所の中堅研究員の方が「主席調査員」として乗船し、調査を指示するわけですが(ちなみに、Kさんはこの「主席調査員」です)、船員さんにはお願いできない調査上の作業について、何人か「調査員」「調査補助員」が合わせて乗船して作業を行う事となっています。今回、私は「調査補助員」として30日弱ほど船に乗らせてもらいました。
こちらが「蒼鷹丸」です。八戸白銀埠頭に寄港時、撮影しました。
仕事の内容
調査船は太平洋沖に何箇所か観測地点を設け、そこで観測作業を行おます。大きい設備(プランクトン用網や自動測定器を沈める・引き上げる機械とか、魚を引く網の機械とか)の操作は船の甲板員の方が行い、調査補助員がやるのは
- 得られたプランクトンの採取、保管
- 自動測定器による測定結果の記録、転送
- 網で得られた魚を魚種別に仕分け(ソーティング)、採取、保管
になります。
この仕事をやる上で必要な事は、募集要項には
この仕事をやる上で必要な事は、募集要項には
洋上泊を伴う乗船及び上記作業の遂行に相応しい経験を有し、かつ、協調性をもって業務にあたれること。 上記業務の遂行に支障のない健康状態であること。
とありましたが、具体的に言うと
- 船(できれば調査船、実習船など)で働いた経験のあり、船での作業のコツをわかっている人
- 水産または海洋生態などの知識があり、やってる作業が何をどうしてるか、どういう目的でやっているか(ある程度)わかる人
この2つがどっちもあれば言う事ないし、まあ片方でもOK、てなところでし
ょうか。水産または海洋生態などを専攻する(あるいはする予定)の学生さんであれば、やる段階であまり知識がなくても、今後のやる気を見込んで(主席)調査員の人がやさしく教えてくれる……のではないかと思います。
こちらが蒼鷹丸の「研究室」です。データ入力用、船内情報確認用のパソコンなどがあり、得られた結果はこちらで入力します。待機時間には、こちらで待機している事となります。待機時間であれば、お茶やコーヒーなど飲んでゆっくりできます。
こちらが、プランクトンネット、および自動測定器を沈める・引き上げる設備です。今回の調査では、プランクトンネットは海底150m、自動測定器は300mまで沈めて、そこから引き上げての作業でした。150mや300mというとけっこうな深さに感じますが、太平洋沖は日本海溝で6000mくらいの深さがあるので、それから見ると表面も表面、といった感じですね(笑)
こちらが、魚を捕るための網です。一定時間(今回の調査では基本30分)網を引いて、それで網にかかった魚を採取、となります。でっかい網なので、海に入れるのも引き上げるのもけっこう時間がかかります。
こちらが、網にかかった魚等です。透明なのはクラゲで、こちらはクソの役にも立ちません……。茶色っぽいのはイカ類で、この段階だとビクビク動いたりしてます。部分黒みの強いピンク色っぽい魚は「ハダカイワシ」で、マイワシやカタクチイワシなどといっしょに多く確認される魚ですが、これの重要性はあまりないんだそうで……
今回の調査では、経度3度刻みくらいで調査点を設定し(細かいとこは海水温分布図を見つつ、主席調査員が考えを練って決めるようです)、調査をしては東に行く、を繰り返し、前半の航海では東経158度まで行ってきました。予定では160度の大台(?)まで行く可能性もあったのですが、魚の数が少なくなったためここで引き返す事になったのでした。ちょっと残念です(笑)
今回の調査では、経度3度刻みくらいで調査点を設定し(細かいとこは海水温分布図を見つつ、主席調査員が考えを練って決めるようです)、調査をしては東に行く、を繰り返し、前半の航海では東経158度まで行ってきました。予定では160度の大台(?)まで行く可能性もあったのですが、魚の数が少なくなったためここで引き返す事になったのでした。ちょっと残念です(笑)
船酔い
船の仕事で一番大変なのは、船酔いかと思います。私はフェリーなら一晩、観光船などだと1時間程度乗った事があり、それで船酔いした事はなかったのですが、釣り船では酷く酔って大変だった事がありました。それくらいのレベルの人、という事で聞いてもらえれば、と思います。
蒼鷹丸はフェリーよりは小さく、釣り船よりは大きい船です(当たり前) 揺れる程度もその中間で、風の強さによって大きく変わります。船内情報で出る数値を目安にすると
蒼鷹丸はフェリーよりは小さく、釣り船よりは大きい船です(当たり前) 揺れる程度もその中間で、風の強さによって大きく変わります。船内情報で出る数値を目安にすると
風速 | (薬なし) | (薬あり) |
---|---|---|
5m/s以内 | ほぼ酔わない | ほぼ酔わない |
5~10m/s | やや酔う | ほぼ酔わない |
10m/s以上 | 酷く酔う | やや酔う |
これくらいでしょうか。船酔いの薬は「アネロン」という強力なのがあり、飲むと1日有効で酔いにくくなるものの、ちょっと頭がぼんやりする、眠くなるという副作用もあります。初めて乗る人だったら、最初からしばらくは飲み続けている方が無難かと思います。今回の私の場合、最初の5日間はずっと飲み続けました。
酷く揺れる日がどれくらいあるか、これは季節の問題もあるし、その時の運の問題もあるし何とも言えませんが、今回の場合全体で3日ありました。この時は作業が中止になるくらいの揺れ(風速15m/s以上)だったのですが、「わーい、休みになって嬉しいな!」などと思えるようなもんではなく、薬を飲んでも「うぐぐ……船酔いで苦しい。これじゃ、働いてる方がずっとマシだわ……」といった感じでした。
酷く揺れる日がどれくらいあるか、これは季節の問題もあるし、その時の運の問題もあるし何とも言えませんが、今回の場合全体で3日ありました。この時は作業が中止になるくらいの揺れ(風速15m/s以上)だったのですが、「わーい、休みになって嬉しいな!」などと思えるようなもんではなく、薬を飲んでも「うぐぐ……船酔いで苦しい。これじゃ、働いてる方がずっとマシだわ……」といった感じでした。
しばらく乗っていると慣れる、というのもあり、前半戦6日目以降は薬を飲むのを止めたのですが、基本何とかなりました(激しく揺れた日にだけまた薬を飲みました) 船員さんの皆々様は、既にこの領域に入ってるんでしょうねー。ちなみに、給油で一時陸に上がった時、再び出港で「飲まずに済むかな?」と思ったら、ちょっと気持ち悪くなって1日ですが薬を飲みました。慣れというのも、なかなか難しいものです。
とにかく、船酔いを苦にしない人にとっては空いてる時間を有効に使えて非常によろしいのですが、弱い人にとっては苦しい中勉強はもちろん読書くらいでもぐったり疲れてしまう地獄の時間となります。釣り船とかで経験がある人ならさておき、新規に乗る人は日数分(途中寄港がある場合その日までの分)の薬を持っておいた方が、まあ無難だろうな、と思います。アネロンはそれほど安い薬ではないので(1日1錠約150円)、20日分だと3000円近くになりますが、それで安心が買えるかと思えば高くもないかと思います。
食事
船仕事での数少ない楽しみ・食事ですが、蒼鷹丸では2~3人の専任の人がいて(「司厨員」といいます)おいしい食事をつくってくれます。1食400円と社員食堂や学食並のお値段ですが、それらと比べると1ランク上の食事が楽しめます。水産研究所の船だけあって、魚料理が充実しています。汁物は魚介類でしっかり出しを取っている時があり、この時の味は並の食堂の汁物のレベルではありません。うまいですよ!
食堂です。メンバーが決まっているので、基本いつも同じ席で食事を取ります。
昼食です。基本ご飯中心ですが、こういう麺類が出る時もあります。皿うどん、そうめんが出た時もあります。
夕食はこんな感じです。魚中心で、なかなか豪華です。
朝食/夜食です。勤務が遅番、夜勤の場合、朝食の分を夜勤に回す事となります。昼夕と比べおかずが少ないですが、夜食だと夕食で余ったおかずをもらえる時があり、ちょっとお得……かもしれません。
船で得られる情報
船での仕事で船酔いの次に心配されるのは、「船に乗ってしまうと、陸と情報がすっかり遮断されてしまうのでは?」という事かと思います。情報入手手段について、個別に説明したいと思います。
(1)携帯電話
携帯電話は、釣り船が沖に出る程度の距離であれば海の上でもつながります。ただ、船がそのままずっと海上に向かって進めば、回線はつながらなくなります。横浜からの出港の場合だと、沖に出てからぐるっと房総半島のところに出るくらいまではつながりましたが、そこから先はアウトでした。また、八戸港への給油入港・出港の場合、入港時は大槌のあたりまで寄ってそこから北上した結果、かなり早い時間から(大槌のあたりから)つながりましたし、出港時は八戸港からほぼまっすぐ東へ移動したため出発1時間くらいであっさり切れました。出港、入港までしばらくはつながる「場合もある」くらいで考えとくのが良いかと思います。
(2)船舶電話
船内には、船舶電話があり、私用にも使って良いそうです。ただし……支払いは、なんと!電子マネーEdy専用なのです。以前はテレホンカードで通話ができたそうなのですが、今はできないそうで、むーん! 私はEdyを持ってませんので、実際に使って確認する事はできませんでした。バンバン使われているようでもなかったので、あまり安くもないんでしょうねー。
(3)テレビ(地上波)
船内居室には、テレビと冷蔵庫が備え付けてあります。テレビは港に停泊中であればその場所のテレビ番組が見られますが、出港すれば携帯電話の電波が届かないくらいの距離になるとアウトです。あまり期待できるもんじゃないですね。
(4)テレビ(BS)
船内居室のテレビではBSも映ります……が、東経145度くらいが限界で、それより東に行くと映らなくなってしまいました。根室を日本の視聴者がいる東端、としてるんでしょうねー。択捉島は日本の領土!というのなら、148度まで映して欲しいもんです(笑)
(5)ラジオ
もしかしたら受信できるかな?と、携帯用のAMラジオを持ってきたのですが、試した範囲では全然ダメでした。ただ、受信感度が高いものであれば、また違う可能性はあります。
(6)船内情報ラジオ
船内居室のテレビでは、船内情報を示す映像が流れているのですが、これのバッグで流れている音声はでっかいアンテナで受信した(らしい)ラジオ放送が流れています。NHKだったりニッポン放送だったり東北放送だったり、局の選択基準はよくわからないのですが、前半での局は東北放送が多く、楽天イーグルスファンの私としてはとても役に立ちました(笑)
(7)船舶インターネット
蒼鷹丸では船舶インターネットの契約をしているようで、業務のためのメールは船から送受信できるようです(主席調査員の方がされてます) ただ、私用はペケです。たぶん、従量制で料金も高いんでしょうねえ……こっち方面の技術が、今後大きく進展する事を祈ります。ここ1年2年で大きく変わる可能性もありそうでうし。
(8)船舶新聞
日本から遠く離れてしまうと、船内情報ラジオ以外ではニュースなどはわからなくなってしまうのか……と思っていたら、共同通信社が発行している船舶新聞というのがあり、毎日朝夕にFAX(なのかな?)で送られてきて、食堂に貼られています。これを見れば、大きなニュースとかプロ野球・相撲の結果などはわかります。完全な情報砂漠ではないよ!といったところでしょうか。
現在の技術の中では頑張ってるとは思うのですが、やっぱり船の生活だと情報は途切れてしまいます。いつでもリアルタイムの情報が欲しい、数日情報がスッポリ抜けるなんてのは許せない、という人だと、まだ今の時代では船の仕事をするのは難しい、という事になってしまうようです。
現在の技術の中では頑張ってるとは思うのですが、やっぱり船の生活だと情報は途切れてしまいます。いつでもリアルタイムの情報が欲しい、数日情報がスッポリ抜けるなんてのは許せない、という人だと、まだ今の時代では船の仕事をするのは難しい、という事になってしまうようです。
その他設備
(1)入浴
蒼鷹丸にはシャワーのある浴槽部屋が2つあり、掃除時を除き、基本いつでも入れる、ようです。シャンプーとかボディソープとかは、自分で持参して使う事になっています。みんなで使うもののためか、「出た後は排水口にたまった髪の毛をその都度掃除して!」という注意書きが大きく掲示されておりました。それだけ詰まる事があった、って事なんでしょうか?
(2)洗濯
浴槽部屋の手前に洗濯機・乾燥機が2つあり、基本いつでも使用できる、ようです。ただ、当然ながら他の人が使っていたらペケなわけで、私の場合混んでる乾燥機は使わずに部屋干しで対応してました。ちなみに、洗剤も自分で持参して使う事となっています。
(3)コンセント
居室にはコンセントが複数あり、パソコンを使うとかDVDを再生するとか(電波は届かなくても)スマホを充電するとかには不自由しません。電気があれば動くもので暇つぶしができる人は、船で退屈する事もないでしょう。
(4)睡眠について
船ではベッドでの睡眠となりますが、しっかり眠れるかどうかは
- ○疲れてよく眠れる
- ○酔い止め薬を飲むと眠くなりやすい
- ×揺れると安眠できない
- ×船の音がややうるさい
と、いくつもの要因があって何とも言えません。私の場合、寝付きはだいたい良かったものの、連続で長くは眠れず途中で目覚める事が多かったです。安眠とはいえない反面長い時間寝て、退屈しにくいのは良かったかと思います。
おわりに
蒼鷹丸での調査補助員の仕事と生活をいろいろと書いてみましたが、どうだったでしょうか。船酔い、情報遮断など大変な事も多いこの仕事ですが、水産または海洋生態などを専攻されている学生さんであれば、実際に教科書や論文などに書かれたデータがこんな形で取られている、というのを実際に作業して知る事ができるのは、大きな価値があるでしょう。勉強になりかつお金も入る(笑)という事で、ぜひ挑戦して頂ければ、と思います。
多賀城 あやめまつり ― 2017年06月25日 18:42
今年で第29回、なんだそうです。
敷地内に、広くあやめの花が咲いています。
料金は無料ですが、駐車場代がかかるのと、園内で↑の通りあやめの株の販売をしています。素人でも、ちゃんと育てられるのでしょうか?
たくさんのあやめを眺めて、ちょっと心が和みました。花は良いですね。
最近のコメント